トリコチロマニア(抜毛症)は、自分で自分の髪の毛や眉毛を抜いてしまうことから、抜毛癖とも呼ばれています。学童期の女児に多く見られていましたが、近頃では成人した男性にも見られることもあります。今回は、トリコチロマニアではどのような症状が見られるのか、なぜ自分で自分の毛を抜いてしまうのかなどを詳しく解説します。自分がトリコチロマニアなのかセルフチェックする方法も紹介しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
トリコチロマニア(抜毛症)とは
トリコチロマニアは、自分の体毛を自分で引き抜いてしまう疾患のことです。地肌が見えるほど髪の毛を抜いてしまうため、まるで円形脱毛症のような見た目になります。髪の毛を抜き続けることで頭皮に炎症が起こり、赤くなっている方も少なくありません。
髪の毛を抜いてしまう方が多く見られますが、他にも眉毛やまつげ、ひげや手足のムダ毛など抜毛の範囲は多岐にわたります。トリコチロマニアの患者さんは、学童期の女児に多いことが特徴です。患者さんの約20%は10~14歳となっています。10~19歳の患者さんが全体の約50%を占めることから、比較的若い世代で見られやすい疾患です。ただし患者さんは何も若い世代だけに限りません。30代や40代、50代でも患者さんが見られます。
若い世代に多いことに加えて、女性の患者さんが多いことも大きな特徴です。患者さんの約94%は女性となっています。ほとんどが女性なのです。しかし、なぜ女性に患者さんが多いのかについては理由がハッキリとは分かっていません。
若い世代に見られやすいトリコチロマニアは、多くが年齢とともに改善傾向を示します。特に幼児期、学童期のトリコチロマニアは自然と治ってくる方が多いのです。しかし中には(特に成人のトリコチロマニアの場合)、一向に症状が治まらずに何十年もトリコチロマニアと付き合いながら生活をしている患者さんもいます。
トリコチロマニア(抜毛症)の症状と脱毛症との違い
トリコチロマニアでなくても、体毛を自分で引き抜く方は少なくありません。なんとなく抜きたくなったりムダ毛処理のためだったり目的は人それぞれです。しかし頭皮が透けるほど抜毛を繰り返したり、頭皮が炎症を起こしてもなお抜毛を続けたりする方はそういないでしょう。トリコチロマニアの患者さんは、体毛を抜きすぎてこのような症状が起こっても抜毛を止められません。
中にはどの体毛を抜くのか、選別してから抜毛する患者さんもいるようです。抜いた毛をそのまま口に運んだり、毛を噛んだり引っ張ったりする方もいます。トリコチロマニアの患者さんが髪の毛を抜毛する場合、利き手側の髪の毛に集中して抜毛することが多いです。そのため右利きの患者さんでは右側の頭皮に抜毛した形跡がよく見られます。
ところでトリコチロマニアと脱毛症はいったい何が違うのでしょうか。大きな違いは、自分で毛を抜くのかどうかという点です。トリコチロマニアは自分で自分の毛を抜きます。一方で脱毛症は、自分の意思とは関係なく、加齢や病気などによって毛が抜けていくものです。加齢によって抜けていく場合は、多くが生え際や頭頂部から脱毛していくのも違いでしょう。トリコチロマニアは手が届きやすい側頭部から毛が薄くなっていくことが多いです。
トリコチロマニア(抜毛症)の原因
トリコチロマニアの原因は、現時点でハッキリとは分かっていません。
幼児の場合は欲求不満、学童期の場合は、緊張や不安感、女性化への拒否反応、患児の性格が抜毛行動と関係しているのではないかと考えられています。つまり精神的なストレスが関係していると言えるでしょう。何かしらのストレスがかかると、その反動で毛を抜いてしまうのです。ストレスの原因としては、家族や友人、学校関係の起因するものが多いと言われています。成人の場合はベースにうつ病などの精神疾患が隠れていることがあります。
毛を抜くことで、ストレスから解放されて気持ちが和らぐと考えられます。髪の毛を抜毛することで量が少なくなればなるほど、抜毛行動を抑えられなくなることも分かっています。そのためトリコチロマニアは、強迫症の一種とも言われている疾患です。
頭皮や髪の毛自体に原因があって脱毛症状が見られるわけではないので、抜毛癖を止められれば髪の毛は自然と生えてきます。しかしトリコチロマニアは、なかなか抜毛行為を止めるのが難しいことが現状です。トリコチロマニアが抜毛癖と呼ばれることからも、抜毛行為が癖になり、なかなか手を止められません。
しかしトリコチロマニアの患者さん本人も、抜毛することで頭皮が見えてくる状態を快く思っているわけではないのです。抜毛を繰り返すことで容姿に変化が出てくるため、見た目を気にしてさらに精神的ストレスを負ってしまう患者さんは少なくありません。
トリコチロマニア(抜毛症)の検査と診断
脱毛がトリコチロマニアによるものなのかをまずは判別します。よく間違えられるのは円形脱毛症や真菌症です。円形脱毛症はストレスによって起こると言われていましたが、今は自己免疫疾患との関係性が大きいと言われています。円形状に脱毛が見られる疾患で、症状が進むと脱毛が連なることもある疾患です。円形脱毛症は脱毛したところの地肌がつるっとしていたり、毛の根元が細くなっているのが特徴ですが、トリコチロマニアの場合は途中で切れた髪の毛が残っていて、顕微鏡で見ると毛がちぎれているところが観察されます。
真菌症の場合も円形脱毛症の一部に脱毛が見られますが、毛孔に黒い点が見られたり髪の毛が途中で折れていたりすることが特徴です。顕微鏡で検査をすると真菌を証明することができます。よく観察、検査しないとトリコチロマニアなのに円形脱毛症や真菌症と誤診されてしまうことがあるので、注意しなければいけません。
トリコチロマニアと診断するためには、患部の観察と共に、次のことに該当するかどうかを確認することも大切です。
- 抜かないほうが良いとは分かっているのに体毛を繰り返し抜いてしまう
- 抜毛を止めようとは思っているけど止められない
- 抜毛によって生活に支障が出ている
- 円形脱毛症や真菌症などが否定できる
トリコチロマニアは自分で自分の毛を抜いてしまう疾患です。抜毛を繰り返すことで頭皮が見えるほどにまでなり、生活に支障が出ている方も多くいます。抜いてはいけないとは分かっていても抜いてしまう、生活に影響が出ている方で他の疾患に該当しない方はトリコチロマニアと診断できるでしょう。
トリコチロマニア(抜毛症)のセルフチェック
次の項目に該当する方は、トリコチロマニアの可能性があります。自分に当てはまることがないかセルフチェックしてみましょう。
- 毛を抜くことで容姿に影響が出ると分かっていても抜くのを止められない
- 抜毛を止めようとは思っているけど、どうしても抜いてしまう
- 抜毛することで容姿が変わり、恥ずかしいと感じている
- 抜毛により生活に支障をきたしている
- 無意識に毛を抜いてしまうことがある
これらはトリコチロマニアの患者さんでよく見られる行動です。当てはまる項目が多いほどトリコチロマニアの可能性が高いと考えられます。
トリコチロマニア(抜毛症)の治療方法
幼児や学童期のトリコチロマニアは自然に治ることが多いのでそれほど専門的な治療につは必要がないことが多いです。ご両親がこの病気について理解し、お子さんのストレスを軽減させてあげることが大事です。髪の毛を抜かないように厳しく指導することは逆効果になることが多いです。
成人のトリコチロマニアは、一般的な脱毛のように発毛を促進するお薬ではなく精神科医と相談としながらSSRIのような抗うつ薬を使って治療を行います。SSRIとはセロトニンの量を増やしてあげるお薬で、トリコチロマニアの他にうつ病やパニック障害、社会不安障害などの治療にも使われているものです。精神的なストレスや不安がトリコチロマニアを引き起こすと考えられているので、お薬を使ってストレスや不安を取り除いてあげます。小児などので薬を使えない場合や薬だけでは効果が出ない場合は、その場合は認知行動療法も行います。
特に小児では抗うつ剤を使いにくいのでカウンセリング、認知行動療法が重要になります。
まとめ
トリコチロマニアは、自分で自分の毛を抜いてしまう疾患です。患者さんの多くは学童期にある女性で、ストレスや不安が原因となって起こると考えられています。トリコチロマニアを発症する原因について、詳しくは分かっていません。円形脱毛症や真菌症と間違えられることもあるため、診断にはトリコチロマニアに特有の行動がないか確認することが大切です。トリコチロマニアと診断された場合は、家族での話し合いからスタートし、改善がなければSSRIを使ったり認知行動療法を行ったりして治療を進めていきます。