ひとくくりに“抜け毛”と言っても、その種類や原因は様々あります。
人間の髪の毛は1日に50~100本程度抜け落ちると言われており、これは自然な生理現象です。
しかし、何らかの原因によって成長途中の髪が抜け落ちてしまうことがあります。
これは異常な抜け毛です。
ここでは、様々な抜け毛の種類と原因について、詳しく解説しています。
髪にはヘアサイクルがある
人間の髪の毛1本1本には、独立した「ヘアサイクル(毛周期)」があります。
健康な髪の毛は、約2~6年かけて「成長期」→「退行期」→「休止期」へと移行し、最終的に脱毛します。
しかし、何らかの原因によって成長期の途中で髪が抜け落ちたり、ヘアサイクルが短縮して早く休止期に入り脱毛することがあります。
これが円形脱毛症やAGAに見られる「異常な抜け毛」です。
それでは次の項目で、異常な抜け毛の種類と原因を詳しくみていきましょう。
抜け毛の種類と原因
主な脱毛症
円形脱毛症
【脱毛の特徴】
☑ 突然に円形または楕円形に脱毛する
☑ 大きさは1円玉くらいの小さいものから頭部全体に広がるものまで様々
☑ 頭髪だけでなく、まゆげなどの体毛が脱毛することも
☑ 脱毛部の境界は、はっきりしている
【抜け毛の毛根の特徴】
円形脱毛症では成長期途中の髪が脱毛するため、抜け毛は毛根が先細りになった「萎縮(いしゅく)毛」が特徴です。
【発症しやすい年齢】
小児からお年寄りまでどの年齢でも発症しますが、全体の4分の1は15歳以下で発症しています。
【概要】
円形脱毛症は、何の前触れもなく突然に円形、又は楕円形に脱毛します。
脱毛斑が1つだけの場合を「単発型」、脱毛斑が数個ある場合を「多発型」と言います。
円形脱毛症の多くは「単発型」か「多発型」であり、これらは自然治癒する傾向が強いタイプです。
また、上記以外に「多発融合型」「全頭型」「びまん型」「汎発(はんぱつ)型」の4つのタイプがあります。
「多発融合型」は、脱毛斑が複数あってそれらが融合し不整形の脱毛を呈する型で、治療が難しいタイプです。この「多発融合型」は小児によくみられます。
次の「全頭型」は、頭髪全体が脱毛する型で、こちらも治療が難しいと言われていますが、一部若い女性において1年ほどで自然治癒した例もあります。
また「びまん型」は、発症するのは女性がほとんどで、全体的に髪が薄くなったのち、頭髪全体が脱毛します。しかし自然に治る傾向が強く、1年以内に治癒することが多いタイプです。
最後の「汎発(はんぱつ)型」は、頭髪のほか、眉毛・まつ毛・あごのヒゲ・腋毛など全身の体毛も脱毛します。こちらも治療が難しく、治癒までに時間を要するタイプです。
【原因】
円形脱毛症の原因と言えば、昔は「ストレス説」が一般的でしたが、現在では「自己免疫説」が主流となっています。
「自己免疫説」とは、本来ウイルスなど外部から入った異物を攻撃すべきTリンパ球が、誤って毛髪を作る毛母細胞を攻撃してしまう、自己免疫のエラー説です。
なぜこのようなエラーが起こるのか、その根本原因は未だ解明されていませんが、以下のような素因があると円形脱毛症を発症しやすくなると言われています。
遺伝的要素
過度な精神的ストレス
アトピー性皮膚炎
橋本病や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患
梅毒などの感染症
【進行パターン】
円形脱毛症はそれぞれの型によって、進行パターンが異なります。
また、「単発型」を発症していたのが突然、「多発型」や「全頭型」に進展することもあります。
円形脱毛症の場合、脱毛斑の周囲の髪の毛を引っ張ってみることで、拡大する傾向にあるかを調べることができます。
進行途中であれば、軽く引っ張るだけで髪の毛が抜けますので、拡大する可能性があることがわかります。
【円形脱毛症かな?と思ったら…】
多くの場合、自然治癒する傾向が強いため、過度に心配する必要はありません。
しかし、脱毛斑が大きく目立つ場合や、拡大傾向にある場合は、皮膚科などの専門機関を受診すると安心です。
男性型脱毛症(AGA)
【脱毛の特徴】
☑ 頭頂部を中心とした全体の髪が薄くなる(O型)
☑ 額の生え際が後退する(M型)
☑ 前頭部全体が後退する(前頭部型)
☑ 上記O型とM型を合わせて発症する(混合型)
【抜け毛の毛根の特徴】
AGA初期の抜け毛は、毛根がこんもりと丸く、毛髪は太く長いのが特徴です。
しかしAGAが進行すると、毛根は小さく、毛髪は細く短い抜け毛ばかりになります。
【発症しやすい年齢】
多くは思春期を過ぎた20~30代で発症します。
早いと17歳頃から脱毛する人もいます。
【概要】
薄毛の悩みを持つ男性の約9割がこの「男性型脱毛症(AGA)」であり、成人男性の3~4人に1人が発症すると言われています。
AGAの初期は、シャンプー時などに太く長い髪の毛が大量に抜けます。
排水溝に髪の毛がたくさん詰まっていたり、床にたくさん髪の毛が落ちていることで、
抜け毛が増えたことに気付く人も多いでしょう。
しかし、AGAが進行するにつれ、抜け毛は細く短いに変わっていきます。
それは、AGAの発症によって毛髪のヘアサイクルが短縮されるためです。
上の図のように、正常時には2~6年かけて髪が成長するのに対し、AGAの場合は
成長期が1年未満などに短縮され、そのまま退行期へと移行します。
そのため、短く細い軟毛が増え、全体として薄毛が目立つようになります。
【原因】
AGAの直接的な原因は、男性ホルモンの一種である「デヒドロテストステロン(DHT)」が関係しています。
簡単に説明すると、この「デヒドロテストステロン(DHT)」によって、毛髪サイクルの成長期が短縮され、薄毛が進行します。
一般的にAGAを発症するリスクが高い人は、遺伝的にDHTを生産しやすい体質の人で
す。
【進行パターン】
AGAは進行性の脱毛症です。
そのため、一度発症するとゆるやかに進行し続けます。
なお、進行パターンは大きく分けて3つあります。
頭頂部を中心とした全体の髪が薄くなる(O型)、額の生え際が後退する(M型)、前頭部全体が後退する(前頭部型)の3つです。
この3つのパターンと進行度を合わせた指標に「ハミルトン・ノーウッド分類表」があります。
この表を元に、今自分がどの段階にあるのか、そしてどう薄毛が進行していくのかを知ることができます。
ちなみに、次の段階への移行にかかる期間は、およそ2~3年と言われています。
【AGAかな?と思ったら…】
AGAはゆるやかに進行する脱毛症です。
そのため、早い段階で適切なケアを行えば、進行速度を抑えることができます。
AGA治療を行っているクリニックに相談しご自身の状態に合ったケアを行いましょう。
はなふさ皮膚科で行っている治療はこちらをご覧ください。
女性型脱毛症(FAGA)
【脱毛の特徴】
☑ 頭頂部を中心に薄毛になる
☑ 髪の分け目を中心に薄毛になる
☑ 全体的に髪がボリュームダウンする
【抜け毛の毛根の特徴】
成長期が短縮されるため、毛根は小さく、毛髪は細く短い抜け毛になります。
【発症しやすい年齢】
女性ホルモンの分泌が減り始める40歳以降に多く発症します。
20代など若い世代ではほとんど発症しません。
【概要】
40代以降の女性の薄毛に多いのが、この「女性型脱毛症(FAGA)」です。
男性型脱毛症とは症状が異なり、頭頂部を中心に髪の本数が減り、毛髪が細くなるのが特徴です。
そのため、部分的に脱毛するのではなく、全体的に髪のボリュームがダウンしたような印象を受けます。
【原因】
女性型脱毛症の原因はまだはっきりと解明されていませんが、一つに加齢による「女性ホルモンの減少」が考えられます。
女性の場合、卵巣から女性ホルモンを、副腎から男性ホルモンを分泌しています。
若いうちは圧倒的に女性ホルモンの分泌量が多いのですが、年齢とともに減少し、相対的に男性ホルモンとのバランスが崩れてしまいます。
その結果、毛髪のヘアサイクルが短縮し、女性型脱毛症を発症すると言われています。
【FAGAかな?と思ったら…】
女性型脱毛症もAGAと同じく、ゆるやかに進行する脱毛症です。
そのため、早い段階で適切なケアを行えば、進行速度を抑えることができます。
こちらもFAGA治療を行っているクリニックに相談し、ご自身の状態に合ったケアを行いましょう。
その他の脱毛症
休止期脱毛
休止期脱毛とは、通常頭髪の約9割が「成長期」の段階にあるはずが、何らかの原因によって髪が抜け落ちる「休止期」の割合が増え、薄毛になる脱毛症です。
この休止期脱毛には以下が含まれます。
分娩後に伴う脱毛
妊娠中は女性ホルモンの分泌が増え、この影響で毛髪の成長期が延長されます。
しかし出産を境に女性ホルモンは一気に減少し、成長期が延長していた髪の毛が一斉に休止期に入り脱毛します。
脱毛は分娩後半年以内に始まりますが、しばらくすると自然に元に戻りますので心配は要りません。
過度なダイエットに伴う脱毛
極端な食事制限などによって、毛髪を作るための栄養素が不足した場合に脱毛がみられることがあります。
過度なダイエットは以下の鉄欠乏性貧血や亜鉛欠乏症の原因にもなります。
鉄欠乏性貧血に伴う脱毛
鉄欠乏性貧血は、貧血の原因として最も多く、女性の約1割にみられます。
鉄は頭皮、毛髪が成長する上で必要な成分であり、鉄分の不足によって脱毛がみられることがあります。
亜鉛欠乏症に伴う脱毛
偏った食生活やダイエットによって近年亜鉛欠乏症患者が増加していると言われています。
鉄と同じく亜鉛も頭皮、毛髪の成長に欠かせない成分であり、不足することで脱毛の原因になります。
内分泌疾患に伴う脱毛
橋本病やバセドウ病などの甲状腺機能異常症に伴って、休止期脱毛を発症することがあります。頭髪全体からびまん性に脱毛するのが特徴です。
また、円形脱毛症を併発することもあります。
膠原病に伴う脱毛
全身性エリテマトーデスなどの膠原病に伴って、休止期脱毛を発症することがあります。前頭部から側頭部にかけてびまん性に脱毛するのが特徴です。
こちらも、円形脱毛症を合併することがあります。
薬剤投与に伴う脱毛症
薬剤を内服したり、注射することによってまれに休止期脱毛を発症することがあります。
薬剤投与に伴う休止期脱毛の多くは、副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)の使用によるものです。
また、薬剤投与に伴う脱毛には抗がん剤治療によるものもありますが、こちらは成長期の髪が抜ける成長期脱毛症に含まれます。
感染に伴う脱毛症
白癬菌やブドウ球菌などの細菌感染によって毛包炎を起こし、脱毛することがあります。炎症が強いと、瘢痕性(はんこんせい)脱毛を残すことがあります。
また、梅毒に感染した場合にも脱毛症状がみられることがあります。
瘢痕性(はんこんせい)脱毛症
何らかの原因によって、毛包が破壊された瘢痕(はんこん)ができる脱毛症です。
瘢痕性脱毛症の原因には、けがや火傷、放射線障害のほか、先で紹介した白癬菌や細菌へ
の感染があります。
トリコチロマニア
トリコチロマニアは、別名「抜毛症」と呼ばれている外傷性の脱毛症です。
子供に多くみられる脱毛症で、無意識のうちに髪の毛を引っ張って抜くことにより脱毛が広がります。
トリコチロマニアは心身症の一種であり、心理的ストレスによって発症すると言われています。
自分の抜け毛の種類と原因を知ることは、適切なケアの第一歩です。
正しく原因を知って抜け毛・薄毛対策に役立てましょう!