遺伝的要因
AGAは多因子遺伝と言われています。
多因子性というのは、ある一つの遺伝子を持っていれば発症する、という単純な遺伝形式ではなく、いくつかの遺伝子があるパターンを作れば発症するという、より複雑で原因遺伝子を同定しづらい遺伝形式です。AGA以外にも糖尿病、高血圧、アルツハイマー病など、様々な身近な病気が多因子性遺伝形式をとります。
例えばX染色体の男性ホルモンレセプター遺伝子のエクソン1、常染色体の3q26や20p11に疾患関連遺伝子があることが疑われています。
ストレスとの関係
ストレスが多いと薄毛が進みやすい、とかストレスが多いと皮脂の分泌が増え、脱毛が進みやすいという噂を聞いたことがある人は多いと思います。
しかし実際のところストレスと関係しているのは円形脱毛症で、AGAや女性型脱毛との関係を証明したものはありません。
若くしてAGAを発症した場合も遺伝的要因が大で、ストレスとはあまり関係がありません。
食事との関係
ワカメを食べると髪の毛が生えてくるとか、海藻を食べると薄毛になりにくいという説があります。海藻類は長くて黒っぽく、ヒラヒラしているため髪の毛を想像させやすいので、そのような俗説が生まれたのだと思いますが、実際はそれを示す医学的根拠は全くありません。
栄養状態が極めて低下すると脱毛が起こること、亜鉛が極めて欠乏すれば脱毛が起こりうることが知られていますが、通常通りの生活を行なっていればそうなることは考えにくく、また、栄養不良による脱毛はAGAと関係がありません。
育毛中の方はバランスの良い食生活を意識すれば十分でしょう。
頭皮環境との関係
頭部の皮脂が多いとそれが毛穴に詰まりAGAに至る、と思っている人も多いのではないでしょうか?この説は歴史が古く19世紀から存在したようです。しかし頭部の皮脂の分泌量はAGAの人もそうでない人も変わりがなく、この説は誤りであることが知られています。育毛サロンではマイクロスコープで頭皮を見て「毛穴に詰まりがあるので、綺麗にして育毛をしましょう」というサービスが行われていますが、全く科学的根拠はありません。そのような方法ではAGAを止めることも治療することもできません。
なぜAGAに男性ホルモンが関与していることがわかったか?
AGAそのものの存在は紀元前より知られていました。男性に発症が多いこと、発症年齢、睾丸を摘出された人には発症しないことから男性機能(睾丸)と関係していることが推測されていました。特に中国では宦官が去勢されていましたが、彼らにはAGAが発症しないことは古くから知られていました。20世紀に入り、ハミルトンが、AGAの家族歴のあるものにテストステロン(男性ホルモン)を注射することで、AGAが実際に発症することを確認し、AGAの発症に男性ホルモンが関与していることが決定的となりました。
女性型脱毛症
女性型脱毛症は、元々は女性の男性型脱毛症と呼ばれ、女性においても副腎などから分泌される男性ホルモンが何らかの影響を与えているものと推測されていました。しかし、女性型脱毛症の患者の血中の男性ホルモン値が正常であることからそれに疑問を感じている医師も多かったようです。フィナステリドが男性型脱毛症に対して有効であることがわかってから、女性型脱毛症の患者に対してもフィナステリドの投与実験が行われましたが、効果なしとの結果を得て、男性ホルモンが関与しているという説は否定されました。
特定の食べ物、生活習慣、シャンプーなどが影響しているということもありません。過度な喫煙と紫外線は増悪因子になっている可能性があります。
老人性脱毛症
加齢とともに毛包の代謝が低下し、髪の毛が薄くなってくる現象を老人性脱毛症と呼びます。人にもよりますが、60歳ごろから見られるようになります。こちらはAGAや女性型脱毛症と合併することも多いのですが、それらとは区別して考えます。老人性脱毛症は頭頂部、側頭部などだけでなく、頭部が全体的に薄くなることが特徴です。
老人性脱毛症に関しては治療に反応しにくいのが特徴です。