「最近、髪の毛のボリュームが気になる」という方なら絶対に知っておいてほしいのが、男性ホルモンと髪の毛の関係です。「男性ホルモンが多いと髪の毛が薄くなりやすい」、「筋トレをすると薄毛になる」といったこともよく聞きますよね。これらの話がはたして本当なのか、男性ホルモンの一種であるテストステロンとジヒドロテストステロンの働きや特徴を詳しく見ながらご説明していきます。
テストステロンとジヒドロテストステロンの働きの違い
男性によく見られる薄毛のことをAGA（男性型脱毛症）と呼びます。このAGAの原因は男性ホルモンです。男性ホルモンが髪の毛を生やすための細胞に影響してAGAを引き起こしてしまいます。しかし男性ホルモンとひとくちに言っても、すべての男性ホルモンがAGAに関係しているわけではありません。
テストステロンとジヒドロテストステロン（DHT）はどちらも男性ホルモンの一種です。男性ホルモンは男性らしい筋肉や骨を形成する役割を担っています。“男性”という名前が付いてはいますが、男性ホルモンは男性だけでなく女性にも分泌されているものです。逆に男性にも女性ホルモンが分泌されています。男性は男性ホルモンが優位となり女性は女性ホルモンが優位となり、その身体的な特徴を作り上げています。
テストステロンの働き
数種類ある男性ホルモンの中でもとくに名前を聞く機会が多いのがテストステロンです。テストステロンは精巣と副腎で日々作られています。テストステロンが分泌される流れは少々ややこしいのですが、視床下部から分泌された性腺刺激ホルモン放出ホルモンが性腺刺激ホルモンの分泌を促し、この性腺刺激ホルモンが精巣に働いてテストステロンを分泌させます。
テストステロンの代表的な働きは以下の通りです。
・筋肉や骨格を男性らしく発達させる
・二次性徴を促す
・性欲を促進させる
ざっくり言うと、男性の体を男性らしくするのに必要なホルモンと言えるでしょう。男性が筋トレをすると筋肉がついてガッチリしてくるのはこのテストステロンの働きのおかげです。
ジヒドロテストステロンの働き
ジヒドロテストステロンはテストステロンから作られるホルモンです。テストステロンに5αリダクターゼ（5α還元酵素）という酵素が働くとテストステロンの構造が少しだけ変わってジヒドロテストステロンへと変化します。ジヒドロテストステロンへと変化することで、テストステロンの10倍以上もの強さになることは有名です。構造はとても似ているのですが、テストステロンとジヒドロテストステロンとでは働きが大きく異なります。
ジヒドロテストステロンは
・性欲を減退させる
・薄毛を促進させる
と行った作用があります。
テストステロンからジヒドロテストステロンに代謝されるだけで、ホルモンの働きが変わってしまいます。テストステロンは性欲を増加させますが、ジヒドロテストステロンは逆に減退させてしまいます。さらには男性ならではのお悩み、薄毛までも進行させてしまうのです。
AGAの原因はジヒドロテストステロン
テストステロンとジヒドロテストステロンの働きをそれぞれ見てもらうとわかっていただけるでしょう。テストステロンもジヒドロテストステロンも男性ホルモンの一種であることには変わりありませんが、AGAの原因となるのはジヒドロテストステロンの方のみです。テストステロンが直接、薄毛を進行させることはありません。
テストステロンがジヒドロテストステロンに変換されるためには5αリダクターゼという還元酵素が必要です。この5αリダクターゼは全身に存在しているものではなく、毛乳頭細胞や前立腺などにしか存在していません。
変換されてできたジヒドロテストステロンがアンドロゲンレセプターと呼ばれる受容体にくっつくと、ジヒドロテストステロンが毛髪の成長をストップさせるように働いてしまうのです。このことからAGAの治療をするには、ジヒドロテストステロンの働きをいかに抑えられるかが大切だとわかります。
ジヒドロテストステロンの量を減らして働きを抑える方法
5αリダクターゼの働きによってテストステロンから作られたジヒドロテストステロンがAGAを進行させる原因です。つまりAGAの進行を止めて毛髪を増やすためには、このジヒドロテストステロンの量をいかに減らせるかが肝となります。
ジヒドロテストステロンの分泌をお薬で抑える
もっとも確実にジヒドロテストステロンの分泌を抑えられるのは内服薬を使う方法でしょう。ここでは代表的な内服薬の特徴を説明していきます。
プロペシア（フィナステリド）
昔から使われているAGAの治療薬なのでご存知の方も多いでしょう。プロペシアの主成分はフィナステリドです。プロペシアは5α還元酵素阻害薬という仲間のお薬で、5αリダクターゼの働きを抑えることで薬効を示します。ジヒドロテストステロンの生成に必要な5αリダクターゼの働きを抑えることで、ジヒドロテストステロンが生成されないようにするお薬です。
ザガーロ（デュタステリド）
ザガーロは比較的新しいお薬です。プロペシアと同様に5αリダクターゼの働きを抑えることで、ジヒドロテストステロンの産生を抑制します。ただ5αリダクターゼを阻害するだけではプロペシアとの違いがありません。しかしプロペシアよりも新しいお薬であるザガーロは、もちろんプロペシアよりもAGA治療に対する効果が高いと言われています。その理由はプロペシアよりも阻害する5αリダクターゼの種類が多いから。5αリダクターゼには実はⅠ型とⅡ型との2種類があります。ザガーロは1型とⅡ型の両方の5αリダクターゼを阻害しますが、プロペシアはⅡ型の5αリダクターゼしか阻害しません。ザガーロの方が阻害する5αリダクターゼの種類が多いので、より治療効果が高いと言われています。
しかし、勃起不全13例(10.8%)、 リビドー減退10例(8.3%)、射精障害5例(4.2%)と、かなり性機能に対する副作用の影響が強いです。
ジヒドロテストステロンの分泌をサプリメントで抑えることができるか？
プロペシアやザガーロを使う方法よりも効果は劣りますが、日々の生活にサプリメントをプラスすることでもジヒドロテストステロンの分泌量を減らせます。
亜鉛を積極的に摂る
「亜鉛が不足するとハゲやすい」と言われることがありますよね。これはただ何となく伝えられてきたわけではありません。亜鉛が僅かながらではありますが5αリダクターゼの働きを抑える可能性があることが示唆されています。もちろんAGAの進行を止めるほど効果があるわけではありませんが、気になる方は少し牡蠣やあわび、卵などに多く含まれているので意識して摂るようにすると良いかもしれません。
ノコギリヤシを積極的に摂る
ノコギリヤシも男性のためのサプリメントとして名ですね。ノコギリヤシに含まれているオクタコサノールという成分が、5αリダクターゼの働きを抑えてくれる可能性が指摘されています。今後、研究で明らかにされていくでしょう。
亜鉛やノコギリヤシが5αリダクターゼの働きを抑える可能性が示唆されていますが、現在のところははっきり分かっていません。いずれにしろザガーロやプロペシアのように医薬品と比べたら効果はかなり弱いので、気休め程度に補ってみるのがよいでしょう。
発汗や排尿でジヒドロテストステロンが排出できる？
ところで「たくさん汗をかけばジヒドロテストステロンが体から出ていく」、「お水をたくさん飲むと尿と一緒にジヒドロテストステロンが排出される」という話を聞いたことがありませんか？これは半分正しいですが、半分は間違いでもあります。たしかに体内で生成されたジヒドロテストステロンは、最終的にはどんどん代謝されていって尿や汗に排泄されます。メインの排泄経路は尿中です。
しかしたくさん運動をしたからと言ってジヒドロテストステロンの分泌量がめちゃくちゃ増えるわけでもなく、同様にたくさんお水を飲んだからと言って尿にジヒドロテストステロンがどんどん出ていくわけではありません。汗や尿中にジヒドロテストステロンの代謝物が排泄されることは事実ですが、汗や尿の量を増やしたところでAGAの治療につながるほどジヒドロテストステロンの量を減らすことはできません。
とはいえ適度な汗をかく運動をすること、お水をたくさん飲むことは健康を維持する上で大切なことです。「AGAを治療するため」ではなく「健康になるため」に運動や積極的なお水の摂取は続けていきたいですね。
筋トレをすると薄毛が進行する？テストステロン、ジヒドロテストステロンとの関係
筋トレをすると筋肉量が増えていくのは、テストステロンの働きのおかげです。テストステロンには筋肉や骨格を成長させる働きがあるので、筋トレとの関係は切っても切れません。筋トレをするとテストステロンの分泌量が増えるため、20代～30代をピークにどんどん減っていくテストステロンの分泌量を少しでも補うのを目的に筋トレをしている方もいるでしょう。しかしここで疑問になるのが筋トレとAGAとの関係です。
筋トレをしてテストステロンの量が増えるのなら、筋トレをしたらAGAが進行するのでは？と疑問に思う方が多くいます。AGAを進行させるジヒドロテストステロンはテストステロンが代謝されることでできることから、確かに筋トレをするとAGAが進行しそうな気がします。でも筋トレをしたからと言ってAGAが進行することはありません。
筋トレで増えるのはジヒドロテストステロンではなくテストステロン
AGAを進行させるのはジヒドロテストステロンでしたね。しかし筋トレで分泌量が増えるのはテストステロンです。そのため直接的に筋トレがAGAを進行させることはありません。また筋トレによって増えたテストステロンがすべてジヒドロテストステロンに変換されるわけではなく、またジヒドロテストステロンの変換量が増えるわけではないのでご安心ください。
仮にジヒドロテストステロンに変換されたとしても問題なし
筋トレによって分泌量の増えたテストステロンがまったくジヒドロテストステロンに変換されないとは残念ながら言い切れません。しかし変換されたジヒドロテストステロンがすべて毛根に働きかけることは決してないのです。ジヒドロテストステロンはアンドロゲンレセプターという受容体にくっついて初めて効果を発揮します。アンドロゲンレセプターにくっついていないジヒドロテストステロンは効果を発揮しません。
このアンドロゲンレセプターの数は限られているので、ジヒドロテストステロンの量が増えたとしてもアンドロゲンレセプターにくっつけるジヒドロテストステロンの量は限られているわけです。つまりいくらジヒドロテストステロンの量が増えてもアンドロゲンレセプターの数が変わらなければ意味がないということ。だから筋トレをしてテストステロンが増えたとしてもAGAは進行しないのです。
まとめ
テストステロンとジヒドロテストステロンはどちらも男性ホルモンの一種ですが、このうちAGAと関係があるのはジヒドロテストステロンのみです。テストステロンに5αリダクターゼが働いてジヒドロテストステロンに変換されると、毛髪の成長に影響してしまいます。つまりジヒドロテストステロンの量を減らせたら薄毛の進行を食い止めることが可能です。5ジヒドロテストステロンを作り出す5αリダクターゼの働きを抑えてあげるとジヒドロテストステロンの量を減らせます。一説では筋トレ＝ハゲるという話もありますが、これは間違いですので心置きなく筋トレに励んでいただいて問題ありません。